過去帳調査について

先祖調査といえば、必ず挙げられるのが菩提寺の過去帳調査です。過去帳に書かれた内容は、宗派や寺院によって異なりますし、同じ寺院であっても、書かれた時代によって異なります。書かれた当時のご住職の性格などにも左右されるのでしょう。

基本的な記載事項としては、俗名・戒名(法名)・没年月日ですが、これに享年・続柄・居住村名などが書かれていることが多いものです。たとえば、次のように書かれていることが一般的かと思います。

天保元寅年一月一日 釋宗順  山田村  甚兵衛 七十歳 甚右衛門父

これにより、山田村の甚右衛門さんの父親の甚兵衛さんが天保元年1月1日に70歳で亡くなり、釋宗順という法名を授かったということが分かります。没年と享年が分かれば、逆算することで出生年も割り出すことが出来ます。

これを時代を遡って調べていくことで、ご先祖の情報が得られるということになります。ただ、享年が書かれていないことも多く、時代が古くなって江戸中期以前になると、続柄が書かれていなかったり、俗名さえ書かれていない過去帳もしばしば見受けられます。

つまり、天保元寅年一月一日 釋宗順と、没年月日及び法名だけが書かれているというケースも珍しくないのです。こうなると、墓碑や古文書等の過去帳を補完する情報でもなければ、ご先祖を特定することは出来ません。さらに問題点として、江戸期以前に於いては、一部の苗字を許された農工商を除き、武家以外では苗字が付けられていないことです。

山田村の甚兵衛さんが同じ時代に一人だけだったというのであれば、まだ特定することが出来るかと思いますが、複数人存在していれば、他に補完する情報がない限り、特定することは困難です。寺院によっては、一般の過去帳とは別に、檀家毎にまとめている親切なところもありますので、そのような場合は大変有益なものとなります。

逆に、そうではない寺院であって、江戸期に武家でもなかった場合の先祖調査にとっては、過去帳は万能とは申せません。

以上のことは、閲覧した上での問題点ですが、それ以前の大きな問題点として、現在は閲覧自体が大変難しくなったということです。確かに、少し前までは過去帳の調査はそれほど難しいものではありませんでした。

ところが、最近では個人情報保護の観点から、閲覧を許可する寺院が僅かとなり、平成26年5月16日の朝日新聞では、「各宗派では所属する寺院に対し、部外者への過去帳閲覧の禁止を周知している。」旨の記事が掲載されています。

過去帳で確認された戒名(法名)によって、差別問題が惹起される事例も発生しており、人権保護の観点からも仕方がないことかも知れません。閲覧をさせて頂くことが難しいのであれば、ご住職に見て頂いて我家のご先祖のものだけを書き出して頂く等などの対応もありますが、それさえも拒否されるご住職もいらっしゃいます。

当事務所では、過去帳の閲覧がさらに厳しくなるという状況を見据え、それでもお寺のご協力を仰げるように各方面に於いて努力するとともに、過去帳以外のあらゆる方法を駆使してご先祖の調査を行うべく、努力研鑽致しております。