宗門人別帳とは

分限帳はご先祖様が武士だった場合に役立つ史料ですが、この宗門人別帳は農民や町人だったという場合に役立つ史料です。

江戸期は、全ての人がどこかの寺の檀家にならなければなりませんでしたが、檀家であるという証明がこの宗門人別帳に記載されるということでした。このため、どの家でも記録がなされていたはずですので、宗門人別帳を見れば必ずご先祖様のお名前が書かれているということになります。

宗門人別帳

右の画像は、中国地方某村の享保18年(1733)の「宗門御改帳」です。イメージだけ知って頂ければと、画像を小さくしていますので読み難いと思いますが、当画像には2軒の家族が記録されています。

参考までに右項に書かれた8人家族を例にとって、以下解説致します。

  • 与七郎    54才
  • 女房     43才
  • 男子 安治郎 23才
  • 同  三次郎 20才
  • 同  七三郎 10才
  • 女子 くら  13才
  • 父 七郎兵衛 81才
  • 母      73才

※寺院名・宗派等についても書かれていますが、当解説上は省略します。


以上、54歳の与七郎を当主とする8人家族です。与七郎夫婦には3人の息子と1人の娘がいます。また、両親も健在ですが、81歳の父七郎兵衛は隠居をしています。隠居をした両親は、家族の最後に書かれています。(※当主夫婦の後に隠居夫婦を書く地域もある。)

残念ながら、妻や母親などの既婚女性の名前が書かれることはく、「女房」や「母」など、当主との続柄で書かれています。これはこの地域に限ったとではなく、全国のほとんどの地域でも同様です。逆に、未婚女性の名前は書かれますので、娘のところには“くら”と名前が書かれています。

また、記録当時の年齢(当然数え年)も書かれていますので、記録された享保18年(1733)から逆算することで、家族全員の出生年まで分かるのです。この宗門御改帳には記載がありませんが、地域によっては妻の出身村や父親の名前が書かれているものもあります。

このように、宗門人別帳は、先祖調査にとって大変貴重な史料です。

宗門人別帳の問題点

先祖調査にとって大変貴重な宗門人別帳ではありますが、以下のような問題点があります。

①苗字がないこと
農民や町人の記録である宗門人別帳には、上に例示した史料でお分かりのように苗字の記載がありません。このため、この史料だけがポツンと存在しているだけでは、どのページがご先祖様の記録なのかが特定出来ず、宝の持ち腐れということになります。

これが家系調査にとって有益な史料となるためには、例えば、最も古い除籍謄本の情報と宗門人別帳に書かれている家族の一部が重なる時代の宗門人別帳である場合です。
除籍謄本で確認出来たご先祖様と同名且つ同じ出生年の人物が同じ村の宗門人別帳に書かれているということは、同一人物と考えてほぼ間違いないでしょう。これであれば、苗字が書かれていないことがカバー出来ます。

このためには、宗門人別帳が除籍謄本の内容と重なる幕末ぎりぎりの時期に作成されたものである必要があります。

当時の村は、せいぜい数十戸程度の規模ですので、同じ村で同じ出生年で同じ名前の人物が2人以上記載されていることは大変稀なことです。このように考えると、除籍謄本だけではなく、墓碑や過去帳などから得られた情報と一致する時代の宗門人別帳が存在する場合も同様に役立てることが出来るでしょう。

②所在の特定が困難であること
実は、さらに大きな問題なのですが・・・これが現存しているか? また、現存しているとすれば、どこが所蔵しているのか? ということです。これが最も苦労するところです。

有難いことに、郷土誌その他の文献に活字として取り上げられているケースもありますが、これは少数です。

地元の図書館や文書館・歴史資料館など、さらに大学の図書館や研究機関などが所蔵していることもありますし、市町村史の編纂事業の際などに市町村の教育委員会が旧家から寄贈や委託されて持っていることもあります。

また、江戸時代に庄屋(名主)をされていた旧家が今も引き続き持っているということもあります。このためには、ご先祖様が住んでおられた村の庄屋をされていた家の子孫の方を探すということもしなければなりません。

このようにして、あっさり見つかることもありますが、なかなか困難なことも少なくありません。そもそも現存していないケースの方が多いくらいです。

③閲覧を拒否される可能性もあること
近年問題となってきたことは、個人情報や人権等の問題により、せっかく苦労して所蔵先を見つけたとしても、閲覧を拒否されることが少なからずあるということです。

「江戸時代の人の個人情報なんて!」と思われるかも知れませんが、これを理由として図書館や文書館・史料館などが閲覧を拒否することは珍しいことではありません。

また、旧庄屋家などの個人蔵であった場合、面倒に感じられたりして良い顔をして頂けない場合もあります。赤の他人が自宅に来るわけですので、不安や不信感をお持ちになるのは当然の感情かと思います。このような場合、押しつけがましい態度で臨むのではなく、如何にして安心して頂けるかを考えて、丁寧且つ情熱を持ってお願いする必要があります。

踏み絵

「先祖調査には、宗門人別帳!」と書かれた書籍やサイトも多いですが、このような問題点があることを認識しておかなければなりません。宗門人別帳に限らず、家系調査に一律のノウハウなどありませんので、あらゆる手段を考えてみるしかないのです。